モーター軸と機械軸——図面上では一直線でも、実物の2軸は必ずズレています。このズレ(ミスアライメント)を無理に拘束すると、軸受が悲鳴を上げて早死にする。だから軸継手(カップリング)が要るわけですが、その中で「平行偏心」の吸収を最も得意とするのがオルダム継手です。
構造は驚くほど単純なのに、なぜ偏心を吸収できて、しかも等速なのか。仕組みから他のカップリングとの使い分けまで、機構設計14年の実務目線で解説します。
1. 構造——3ピースの「直交スライド」
オルダム継手は3つの部品でできています。
① 入力側ハブ:端面に直線の凸キー(または溝)
② 中間ディスク:表と裏に互いに90°ねじれた溝(または凸)
③ 出力側ハブ:端面に直線の凸キー
中間ディスクは入力ハブに対して一方向へ、出力ハブに対してそれと直交する方向へスライドできます。X方向とY方向、2つの直動自由度を持つので、2軸がどの方向に平行偏心していても、ディスクがスライドして吸収してくれる——これが原理です。XYステージを継手に閉じ込めたような機構、とイメージすると分かりやすいですね。
2. なぜ等速なのか——スライドは回転を乱さない
偏心した2軸をオルダム継手でつなぐと、中間ディスクは1回転の間に円を描くように振れ回りながらスライドします。重要なのは、スライド運動が回転方向の位相に影響を与えないこと。キーと溝は常に面で噛み合ったまま滑るだけなので、入力の回転角はそのまま出力に伝わります。つまりユニバーサルジョイント1個のような速度脈動が原理的に発生しない、等速継手です。
偏心量eでつなぐと、中間ディスクの中心は半径e/2の円運動をします。回転数が上がるとこの振れ回りが遠心力=振動源になるため、高速回転×大偏心の組み合わせは苦手。メーカーの最高回転数と許容偏心の同時成立条件を必ず確認してください。
3. 他のカップリングとの使い分け
| 項目 | オルダム | ジョータイプ | ディスクタイプ | ベローズタイプ |
|---|---|---|---|---|
| 平行偏心 | ◎ 得意(〜数mm級も可) | ○ 中 | △ 小(2枚組で対応) | △ 小 |
| 偏角 | △ 小(1°前後) | ○ | ○ | ○ |
| ねじり剛性 | ○ 中 | △ 低(弾性体) | ◎ 高 | ◎ 高 |
| バックラッシュ | ○ 小(予圧型はゼロ) | ○ 小 | ◎ ゼロ | ◎ ゼロ |
| 振動減衰 | △ | ◎ 樹脂が吸収 | × | × |
| 許容トルク・価格 | ○ 中・安い | ○ 中・安い | ○ 中・中 | △ 小・高い |
サーボの位置決め軸で「剛性最優先」ならディスク型、「振動・衝撃を逃したい」ならジョー型、そして「組立都合でどうしても偏心が大きく残る」ならオルダム。偏角が主体のズレなら、そもそもカップリングではなくユニバーサルジョイントの領域です。
4. 中間ディスクは「消耗品」として設計する
オルダム継手の中間ディスクは、多くの製品で樹脂(ポリアセタールなど)の交換部品になっています。スライド面は常に摺動しているため、偏心量が大きいほど・回転数が高いほど摩耗が進む。これは欠点というより、「ディスクだけ替えれば復活する」というメンテ性として捉えるのが正解です。
設計側でやるべきことは2つ。①ディスク交換時に軸を抜かずにハブを広げられるスペース(軸方向の逃げ)を確保しておく、②摩耗粉が嫌なクリーン環境では採用自体を再検討する——この2点を初期レイアウトで押さえておくと、保全部門に感謝されます。
オルダム継手の中間ディスクの動きは、静止画では絶対に伝わりません。54機構を収録した動く機構図鑑なら、偏心吸収の瞬間をアニメで確認できます。
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5. 【実話】「カップリングは何でも吸収してくれる」と思っていた日
若手の頃、モーターベースの加工精度を緩めた装置で「カップリング付けてるから芯出しはそこそこでいいでしょ」と、現場の芯出し作業を省略気味にしたことがあります。使っていたのはジョータイプ。許容偏心0.1mm程度のところに、実測0.4mmの偏心で運転していました。
2カ月後、樹脂スパイダ(弾性体)が粉になって脱落し、金属ハブ同士がガチ当たりして異音爆発。「許容ミスアライメント」はカタログスペックであって、無視していい免罪符ではない——という当たり前の事実を、樹脂の粉から学びました。
改修では芯出し基準を見直しつつ、構造的に偏心が残りやすい箇所だけオルダム継手へ変更。偏心吸収はオルダムの本職なので、その後は安定稼働しています。継手は「ズレの種類」に合わせて選ぶ。万能なカップリングは存在しない、が結論です。
6. SolidWorksでの設計ポイント
① 偏心を意図的に与えて挙動確認:アセンブリで2軸にあえて0.5mmの平行オフセットを与え、中間ディスクのスライド合致(2方向)を組むと、振れ回り運動をMotion Studyで再現できます。許容偏心ギリギリの動きを目で確認できるのは強いです。
② ディスク交換スペースを断面図で検証:軸方向の逃げ量(ハブを広げる距離)を断面表示で確認し、図面に「メンテスペース」として注記しておくと保全性が伝わります。
③ ハブ穴はコンフィグで軸径バリエーション管理:モーター変更で軸径が変わるのはよくある話。穴径・キー溝をコンフィグ化しておくと流用が一瞬で済みます。
7. 選定手順——5ステップで決める
STEP1 2軸のズレを「平行偏心・偏角・軸方向」に分解して見積もる
STEP2 偏心主体ならオルダム、偏角主体ならジョイント系、剛性最優先ならディスク型
STEP3 伝達トルク×使用係数でサイズ選定(最大回転数との同時成立を確認)
STEP4 バックラッシュ要求があれば予圧タイプ(すきまゼロ型)を指定
STEP5 ディスク交換のメンテスペースと摩耗粉の影響を確認する
8. よくある質問(FAQ)
Q. オルダム継手はサーボの位置決め軸に使えますか?
A. 使えます。すきまをなくした予圧タイプならバックラッシュレスで位置決めに対応できます。ただし最高剛性が必要な用途ではディスクタイプが優位です。
Q. 許容偏心はどのくらいまで取れますか?
A. サイズや製品によりますが、一般的なカップリングが0.1〜0.2mm級なのに対し、オルダムは数倍〜mm級まで対応する製品があります。カタログの許容値と回転数の関係を確認してください。
Q. 中間ディスクの交換目安は?
A. 偏心量・回転数・負荷で大きく変わります。定期点検でガタ(回転方向の遊び)の増加を測り、規定値を超えたら交換するのが実務的です。
Q. 金属ディスクのオルダム継手もありますか?
A. あります。高トルク・高温環境用に金属スライダ式もありますが、潤滑が必要になるなど扱いが変わるため用途に応じて選定してください。
9. まとめ
オルダム継手は「直交2方向のスライド」というシンプルな原理で、平行偏心の吸収に特化した等速継手です。万能ではない代わりに、本職の領域では他の追随を許さない。ズレを偏心・偏角・軸方向に分解して、ズレの種類で継手を選ぶ——この習慣が、軸まわりのトラブルを根こそぎ減らしてくれます。
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